フィリピンではジャーナリストが脅迫されることが珍しくなく、レッサ被告の裁判は国内外の関心を集めていた。
レッサ被告は罪状を否認し、政治的な動機に基づく訴追だと主張していた。
レッサ被告に加え、同被告が設立したニュースサイト「ラップラー」の元記者1人も有罪となった。
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2人は上訴審まで保釈が続く。有罪が確定した場合、禁錮6年の刑を受ける可能性がある。
報道の自由を推進する団体はこの裁判について、ドゥテルテ大統領に対する批判の封じ込めを狙ったものだとしている。
一方、大統領と支持者は、レッサ被告とラップラーを「フェイクニュース」だと非難している。
レッサ被告は米CNNの元ジャーナリストで、2012年にラップラーを設立。ドゥテルテ政権と、同政権が進める残忍なまでの麻薬撲滅戦争を批判してきた。
「証拠を示さなかった」
裁判は、ビジネスマンのウィルフレド・ケン氏と元裁判官が癒着があるとした8年前の記事をめぐって争われた。
この記事が出て4カ月後の2012年9月、「サイバー名誉毀損」法が施行。物議を醸す中、同法で訴追された。
検察は、2014年に問題の記事のタイプミスが修正されたことから、記事は同法の訴追対象になると主張した。
この日の判決でライネルダ・モンテア裁判官は、ラップラーがビジネスマンに関する記述を裏付ける証拠を示さなかったとした。
また、判決は法廷での証拠に基づいたものであり、報道の自由は名誉毀損の免責理由にはならないと述べた。
人権団体が非難
フィリピンでは報道の自由は保障されているが、米人権団体「フリーダム・ハウス」は、フィリピンはジャーナリストにとって非常に危険な国だとしている。
「国境なき記者団」は、「地元政治家に雇われることもある私兵がジャーナリストの口を封じ、何の罪にも問われていない」としている
ドゥテルテ氏に批判的な人々からは、厳しい政権批判をするメディアを、政府が圧力と報復の対象にしているとの見方が出ている。
人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」のアジア・ディレクター代理のフィル・ロバートソン氏は、「この判決は、フィリピンの虐待的な指導者が国にどんな損害が出ようと、批判的で、高く評価されているメディアを追い詰めるために法律を利用できることを見せ付けている」と述べた。
どんな人物?
レッサ被告はフィリピン生まれ。1970年代初めにフェルディナンド・マルコス大統領(当時)が戒厳令を発令したのを受け、子どものときにアメリカに渡った。
プリンストン大学を卒業後、「ルーツを探して」フィリピンに戻った。1986年にマルコス政権を終わらせたピープル・パワー革命の最中だった。
「自分はアメリカ人のようなアメリカ人ではないといつも感じていた。フィリピンに戻ったらフィリピン人ではないと分かった」とBBCのインタビューで述べていた。
遠い出身国だったフィリピンについてもっと知ろうと、ジャーナリストになった。ドゥテルテ氏とは、彼がダヴァオ市長だった1980年代に初めて会った。
レッサ被告はCNNのフィリピンやインドネシアの支局長などを歴任。その後、フィリピンのテレビ局ABS-CBNの報道局長を務めた。
2012年に、「ラップ」(話す)と「リップル」(さざ波)の2語を組み合わせて「ラップラー」と名づけたニュースサイトを開設。フェイスブックのフォロワーは現在、400万人近くに達しており、深い分析と鋭く切り込む調査報道が評判となっている。
2015年には、当時ダヴァオ市長のドゥテルテ氏が3人を殺害したと報じ、大きな注目を集めた。
ドゥテルテ政権を批判
ラップラーは、大統領となったドゥテルテ氏を正面から批判する、数少ないフィリピン・メディアの1つだ。
多くの死者を出している麻薬撲滅戦争については、たびたび取り上げてきた。レッサ被告は自ら、ソーシャルメディアを利用した政府のプロパガンダ拡散について報じてきた。ラップラーは、女性差別や人権侵害、汚職などの問題も批判的に扱ってきた。
レッサ被告は、2018年には米タイム誌の「今年の人」に選出された。「ソーシャルメディアと、権威主義的傾向をもつポピュリストの大統領という、情報界における2つの非常に強力な巨大暴風雨の中で」ラップラーを率いた手腕が評価された。
ドゥテルテ氏はラップラーに目をつけていた。昨年には、ラップラーの記者に、「我々にごみを投げつけるなら、説明くらいさせてほしい。あなたはどうなのか? 潔白なのか?」と迫った。
また、ラップラーの記者に対し、政府の動きについて報じることを禁止。政府は昨年、ラップラーの運営許可を失効とした。
昨年3月に逮捕
レッサ被告は昨年3月、外国資本によるメディア所有を禁じた法律に違反したとして逮捕された。ラップラー側は、国外組織に管理されているとの政府の主張を否定している。
ドゥテルテ氏は、ラップラーに対する脱税の嫌疑は正当なものであり、報道内容とは無関係だと主張。また、「サイバー名誉毀損」の疑いは、ビジネスマンが訴えているものだと述べた。
レッサ被告は、すべての訴追は「政治的手段」だと強調。報道の自由の推進団体や活動家たちは、この見方を支持している。
フィリピンにはレッサ被告を尊敬する人がいる一方、嫌悪感を示す人もいる。ドゥテルテ氏の支持者はソーシャルメディアで、レッサ被告の印象操作に取り組んでいるとされる。
東南アジア研究が専門の匿名希望の学者は、「ドゥテルテ氏は支持率がまだかなり高く、過去にレッサ被告をあざけったこともあり、レッサ被告はある種の『エリート』扱いを受けている」と説明。
「彼女の仕事は素晴らしいし、ドゥテルテ氏に好き勝手させない抑止として必要なものだが、大衆的な観点では、そしてマニラ以外では、彼女は世間の実態から『ずれている』と思われている」と述べた。
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